自分へのご褒美に
for ME
琥珀色の日本酒を自分に贈る。
長年勤めた会社を退職し、まさか自分が独立する日がくるなんて。
一から育ててくれた上司、負けたくないと思った同僚、放っておけない後輩の顔が次々に浮かんでくる。
これからは何をするにも自分で決断していかなくてはいけない。
誰のせいにもできない。選ばなかった道に未練がないかと聞かれたら「ない」とは言い切れない。守られてきた分だけ不安は大きい。
だけど、それ以上に自分に期待をしたい。
そんな自分を激励するかのように古酒を購入した。
10年以上長期熟成された、希少な日本酒の古酒。
「時を飲む」―。
過去に区切りをつけ、また長い年月の一歩を踏み出す今の自分に必要なお酒に思えた。
自宅に届き、箱を開けた瞬間心が躍る。
特別なギフトを思わせる高級感漂うボトルには、シリアルナンバーが刻まれている。
そのまま飾っておきたくなるほどおしゃれな見た目は、自分で購入していなければ日本酒だと気づかなかっただろう。
おしゃれなことはもちろん、予想外な展開や珍しさはいくつになっても楽しく嬉しい。
早速グラスを用意する。
トクトクと注がれる音、グラスの中できらきら揺れる琥珀色、そしてグラスから広がる甘い香りに期待が膨らむ。
飲んだのは「1995 葵鶴」。
20年以上も熟成された、寒暖差の大きい土地で造られたこのプレミアムな古酒。
口に含み、まろやかなのにスパイシーな風味に驚く。
葵鶴を飲みながら、過去に区切りをつける必要はないのかも、と思いなおす。
今までの自分を抱えながら、また一歩歩みを進める。これまでよりも、深い一歩を、軽やかに。
自分への少し背伸びをしたギフト。
飲みながら自分の明日を楽しみにしていることに気づいた。